東京高等裁判所 昭和28年(ラ)60号 決定 1953年5月16日
抗告人 村松勝太郎
主文
本件抗告を棄却する。
理由
本件抗告の要旨は、「抗告人は、静岡製綱株式会社の発起人、取締役、監査役、清算人らが定款並びに商法の規定に違反し会社に不法の損害を与えたことについて、特別清算の申立をすれば、裁判所が監督するのであるから、正当な清算がなされるものと思い、静岡地方裁判所浜松支部に本件特別清算の申立をしたのである。(同庁昭和二十七年(ヒ)第二号特別清算事件)しかるに、右事件の担当裁判官播本格一は監督不十分で職務懈怠が甚だしいので抗告人は、同裁判官に裁判の公正を妨ぐべき事情ありとして原裁判所に忌避の申立をしたところ(同庁昭和二十八年(モ)第二八号裁判官忌避申立事件)原審は、裁判官忌避に関する民事訴訟法の規定は非訟事件に準用がないのみならず、忌避の原因の疎明がないとの理由の下に、抗告人の右申立を却下した。しかしながら、非訟事件手続法第二十五条によれば、抗告には特に定めたるものを除く外民事訴訟法の規定を準用する旨定められていて、裁判官忌避に関する民事訴訟法の規定が非訟事件に準用せられていることは明らかであるから、ここに疎明を追完して抗告に及んだ次第である。よつて、原決定を取り消し、抗告人の忌避申立は理由ある旨の裁判を求める。」というにある。
しかしながら、本件のような株式会社の特別清算に関する事件は商事非訟事件に属するところ、非訟事件手続法には裁判所職員の忌避に関する民事訴訟法の規定を非訟事件に準用する旨の規定がないから、非訟事件においては裁判官を忌避することはできないものと解するを相当とする。固より非訟事件においても裁判所職員は公平無私にその職務を行うべきものなること訴訟事件の場合と同様であり、それがため非訟事件手続法は裁判所職員の除斥に関する民事訴訟法の規定を非訟事件に準用したのであるが、(同法第五条参照)非訟事件における利害関係は訴訟事件における程大でなく、手続は簡易主義をとり、偏頗の恐れも比較的少ないので、特に忌避に関する民事訴訟法の規定を非訟事件に準用しなかつたのである。所論の非訟事件手続法第二十五条の規定だけではこれが準用があるものと解することができない。従つて抗告人の本件忌避の申立はその原因の疎明の有無を審査するまでもなく失当であつて却下を免れないものであり、これと同趣旨に出た原決定は相当であつて抗告人の抗告は理由がないので、主文のとおり決定した。
(裁判長判事 大江保直 判事 岡咲恕一 判事 猪俣幸一)